「1925年執筆の評論・随筆等」(横溝正史)

忘れてならないのは「評論・随筆等」

「1925年執筆の評論・随筆等」
(横溝正史)
(「横溝正史探偵小説選Ⅰ」)論創社

「横溝正史探偵小説選Ⅰ」論創社

一週間に一度か二度私は屹度
古本屋廻りをやる。
そして三の宮辺の古本屋に、
山のように積上げてある
外国の古雑誌を、
丹念に引繰り返しては、
その中から一冊か二冊ぐらい宛
買って来る。
こう云うと私は如何にも
外国の雑誌通らしく…。
「ビーストンの面白さ」

横溝正史は一生涯に書き上げた
作品の数が多く、
なかなか全貌のつかめない作家です。
金田一耕助シリーズなどは
戦後に書かれたものの一部であり、
由利・三津木シリーズ
探偵の登場しない作品、そして
人形佐七捕物帖
お役者文七捕り物暦などの
時代物を含めると、
膨大な数に及ぶのです。
でも、忘れてならないのは
「評論・随筆等」の
ノンフィクションなのです。

冒頭の一節を取り上げた
「ビーストンの面白さ」は、
そうした評論・随筆等の最初期
1925年に書かれた随筆です。
イギリスの作家・ビーストン
(L.J.ビーストン 1874-1963)について
取り上げ、語っています。
横溝はこのビーストンを
かなり偏愛していたらしく、
次のような一節もあります。
「ビーストンの名前さえあれば、
 私は一も二もなく
 その雑誌を買う事に極めている。
 だから私が古本屋巡礼をした後の
 古本屋には、
 ビーストンの名前が出ている雑誌は
 一冊も残っていないだろうと
 云っても、あながち
 過言ではないと思うのである。」

なお、ビーストンは、
1921年に出版された雑誌
「新成年」増刊号において、
邦訳である「マイナスの夜光珠」が
発表され、以降、「新青年」に邦訳が
多数掲載されることとなりました。

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さて、この1925年(大正14年)に
執筆された「評論・随筆等」は、
以下のようになります。

「ビーストンの面白さ」
「創作探偵小説集「心理試験」」
「幽霊屋敷」
「探偵問答」
「探偵趣味問答」
「マイクロフォン」

「創作探偵小説集「心理試験」」は、
もちろん乱歩の短編集
「心理試験」に対する論評です。
盟友乱歩の傑作を讃える貴重な文章を
読むことができます。

渋川公園の納涼博覧会のなかに、
幽霊屋敷というのが
出来ているというのをきいて、
ひと晩私は、好奇心を持って
それへ出かけて行った。
藪抜け。鏡抜け。幽霊屋敷。
私がまだ小学校へ
通っている時分、
よくそう云うものが新開地の…。
「幽霊屋敷」

「幽霊屋敷」は、雑誌「探偵趣味」に
掲載された随筆ですが、
この一篇には、この後の横溝の
作風に関わる重要な一節が見られます。
「私のいま求めているのは、
 もっともっと強烈な色彩にある。
 赤と黒の色彩、
 ――言いかえれば血みどろな色彩――
 そう云うものを探偵小説のなかに
 出すことは出来ないものだろうか」

横溝は、
創作の初期段階で思い立った意志を、
創作活動五十年の中で、
見事に透徹させているのです。
戦前の耽美的作風の作品も、
戦後の金田一シリーズも、すべて
「赤と黒の色彩」に彩られています。

「探偵問答」「探偵趣味問答」
「マイクロフォン」などは
いずれも小品ですが、
こうしたものからも
横溝の探偵小説に対する考え方を
覗き見ることができます。

論創社から出版されている本書
「横溝正史探偵小説選Ⅰ」には、
こうした素敵な「評論・随筆等」が
収録されています。
横溝ファンは見逃すことはできません。

※なお、
 私が常に参考にしているサイト
 「横溝エンサイクロペディア」によると
 本書に掲載されている
 「探偵趣味問答」(1925年11月)の
 ほかに、もうひとつ
 「探偵趣味問答」(1925年12月)が
 あるようです。

※死ぬまでの間に、
 横溝正史の全作品を
 当サイトに取り上げることを
 目標にしています。
 ただし、「評論・随筆等」については、
 その数の多さを考え、
 執筆年でまとめて
 取り上げていきたいと思います。
 横溝の創作開始は1921年ですが、
 1924年までは、「評論・随筆等」を
 書いた記録は見当たりません。
 今回の1925年が最初のようです。

〔ビーストンについて〕
ビーストンの作品については、
1970年に中島河太郎の編集で
出版されていますが、当然絶版です。
古書を探すしかありません。

なお、2019年には
本書と同じ論創社から
オーモニアの作品とともに
「至妙の殺人・妹尾アキ夫
翻訳セレクション」
として
刊行されています。
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〔創作探偵小説集「心理試験」〕
収録されていたのは以下の作品です。
二銭銅貨
D坂の殺人事件
黒手組
心理試験
一枚の切符
二廃人
双生児
日記帳
算盤が恋を語る話

恐ろしき錯誤
赤い部屋

この本については1993年、
江戸川乱歩生誕100年記念として、
復刻出版されています。
もちろん現在絶版中であり、
それなりの値段で
取引されているようです。

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